tlil's diary

学生結婚(学部) -> 出産・学生ママ(修士) -> 卒業して企業の研究所で社会人デビュー

「色」の感覚についてのおもしろい事例 (物理+心理)

人がどう色を感じるかきちんと調べたいなって思って、
そういえば積ん読状態だったファインマン物理学の2巻に何か書いてないかなーと思って引っ張り出したら書いてあった。


ファインマン物理学、10章:色覚

基本的なスタンス

まず、

  1. 物理学は眼に入る光の特性を云々して、
  2. 生理学+心理反応が、人の色に対する感覚を云々する

だから、ものを見るという現象を理解するには普通の意味における物理学の範疇を超える必要がある。

興味深い事例
  1. 光が非常に弱いところでは、見るものには色が無い。
  2. 望遠鏡から肉眼で見る遠い青雲には色が無いが、良い観測機器を使えば美しいカラー写真が取れる。
  3. 明るい光の中では赤が青よりも明るいけど、暗い所では赤は暗黒に近く、青の方が明るく見える。
  4. 暗いところでは、まっすぐ対象を見据えるより、ちょっとだけ周辺の視野でみたほうがはっきり見えることがある。
  5. 目の端から色のついたカードを持って来てもらうと、色が決定できるずっと前にカードがあることは見て知る事ができる。
すべては眼から

網膜の周辺部には「桿状体」が密につまってる
黄斑(視野の中心に対応。視覚がもっとも鋭敏な場所)の近くには「円錐体」がたくさんある。

人間は視野の中心では円錐体でものを見て、周辺に行くに従って桿状体も働きはじめる。

桿状体は光に対する感度が高くて暗い所でも働く。明暗を見るのが得意だけど、色彩感覚は無い。
円錐体は光に対する感度が低いから明るい所ではじめて働く。明暗感覚には弱いけど、色彩の識別が可能。

つまりさっきの事例の原因は
  1. 暗いところではほとんど完全に桿状体が視覚情報を伝えているから
  2. 円錐体が反応できるほどの強度の光が遠い青雲からはやってこないから。光の強さが不足してるだけ。
  3. 桿状体と円錐体のスペクトルに対する感度傾向に違いがあるから(下図)
  4. 暗いとこでものを見る桿状体が、中心視野に対応する黄斑部には存在しないから
  5. 周辺視野部には色彩を識別できる円錐体が非常に少ないから

色の合成について
  1. スペクトル分布は違うが区別できないXとYという色があったとき、両者にZという色の光を当てても区別できない(X+Z =Y+Z)
  2. どんな色でも必ずみっつの異なる色から作られる。(その3つをA,B,Cとすると、任意の色X = aA + bB + cC (各係数はマイナスも取り得る))
  3. 赤、緑、青を3原色に選ぶと、多くの色がマイナスの係数なしに実現できるというだけ
  4. はじめて見たけど、色度図ってのが面白かった(http://www.shokabo.co.jp/sp_opt/spectrum/color3/color-d.htm も参照)

色度図において、2色を混ぜて得られる任意の色は、その2色を結ぶ直線上に存在する。赤、緑、青をまぜることでだいたいの色が表現できるが、正の係数だけでは表現できない色もある。
色覚異常(いまは色盲とは言わない、というか区別があるらしい?)の人は、この色度図においてとある直線上の色がすべて同じに見える

感想

というわけで、色覚について古い内容もあるかもしれないけどざっと読んでみた。
桿状体と円錐体の役割および分布の違いによって色についての不思議な体験が説明できるのも面白かったし、
色の合成の話から色度図の理解、そして色覚異常の人の認識の仕方まで明確に腑に落ちて面白い経験をした読書だった。